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プロローグ:皇位継承の夜
夜空を覆う黒雲が、時折稲光によって裂ける中、インペリアルガードの兵士たちが厳重に宮殿を守っていた。皇帝の間では、歴代の皇帝たちが使用してきた古い玉座が淡い光に包まれ、その中心にアバロン帝国の若き皇帝、レオンが立っていた。
「伝説の七英雄が再び現れた、と?」
その表情は硬く、深い皺が眉間に刻まれていた。長き平和を享受していたアバロン帝国に、闇が忍び寄っている。レオンは報告書を握りしめながら、視線を窓の外へ向けた。
「皇帝陛下。」隣に控えていたのは、彼の長子であり次代の皇帝候補と目されるジェラール。彼は父の背中を見つめながら、静かに言葉を選んだ。「このままでは、帝国の平和は危機に陥る。私たちが動くべきです。」
第一章:動乱の始まり
アバロンの宮殿内では、戦士たちの声が絶え間なく響いていた。七英雄という名の恐るべき存在が帝国の周辺に出現し、次々と周辺国を滅ぼしているという噂はすでに広まっていた。その力は伝説を超え、もはや現実の脅威として迫っていた。
「ジェラール、お前に試練を与えたい。」レオンは息子に向き直り、鋭い視線を投げかけた。「皇帝として国を導くには、ただ剣を振るうだけではなく、冷静な判断と、民を守る覚悟が必要だ。」
ジェラールはうなずいた。「父上の教え、しかと胸に刻んでおります。私は帝国のために戦います。」
「そうか。それならば――」
その時、大広間の扉が音を立てて開いた。一人の兵士が駆け込んできた。
「報告!七英雄の一人、クジンシーが隣国サラマンドを襲撃し、すでに占領しました!」
室内の空気が一瞬にして凍りついた。
「クジンシー…あの不死の怪物が動き出したか。」レオンは低くつぶやいた。
「陛下、我々の軍を送るべきです!」将軍の一人が声を張り上げた。「奴を放置すれば、次は我が国が標的となるでしょう!」
しかしレオンは首を振った。「まだだ。相手の力を正確に知る必要がある。それに、帝国の全軍を動かすには時期尚早だ。」
「では、私が先鋒を務めます。」ジェラールが一歩前に出た。「サラマンドの現状を調査し、必要ならばクジンシーと戦います。」
レオンは目を細めた。息子の若さと熱意は頼もしいが、その未熟さが命取りになることを知っている。
「ならばこうしよう。私が直接サラマンドへ赴く。ジェラール、お前はアバロンに残り、次の準備を進めよ。」
父と息子、別れの決意
翌朝、レオン率いる部隊がアバロンを出発する準備が整えられた。宮殿の中庭には騎士たちが集い、鋼の甲冑が朝陽に輝いている。
「父上…どうかご無事で。」ジェラールはレオンの前に膝をつき、深く頭を下げた。
「ジェラール、お前にはまだ果たすべき使命がある。」レオンは息子の肩に手を置き、その目をじっと見つめた。「私が戻らなかったとしても、帝国を守る責任はお前にある。」
「父上…!」
その言葉の重みを理解しつつも、ジェラールはそれを受け入れる覚悟を決めた。
「信じています、父上の力を。そして私自身の成長も。」
レオンはうなずき、馬にまたがった。「帝国の未来はお前に託す。だが心を急がず、必ず自分を磨け。」
軍旗が高らかに掲げられ、レオンと部隊は城門をくぐり抜けて出発した。ジェラールはその背中を見送りながら、静かに拳を握り締めた。
戦いの火蓋
レオンの一行は、サラマンドの町に近づくにつれて、クジンシーの残した惨状を目の当たりにする。焼け落ちた家々、逃げ惑う人々、そして帝国軍が勇敢に戦った跡がそこかしこに残されていた。
「陛下、クジンシーの軍勢が進撃を続けています!」斥候が報告する。
「ならばここで奴らを迎え撃つ。アバロンの誇りを見せよ!」レオンは剣を抜き放ち、部隊に号令を下した。
クジンシーの部隊が近づく音が聞こえる。重い足音と共に、闇に包まれた巨大な影が姿を現した。その中心には、不気味な紫の光を放つクジンシーが立っている。
「おお、これがアバロンの皇帝か。愚かなものよ、私に逆らうとは…」
「この地を荒らす貴様を放置するわけにはいかん!」レオンは剣を構え、仲間と共に戦闘態勢を整えた。
剣と魔法が交錯する中、レオンの力と戦略が光る。だが、クジンシーの不死の力は圧倒的で、戦いは長期戦に突入した。
第一章の終わり:運命の始まり
激しい戦闘の中、レオンは戦士たちを鼓舞しながら戦った。しかし、クジンシーの力は計り知れず、レオンは深い傷を負いながらも、仲間を退却させる時間を稼ぐため、一人最前線に立ち続ける。
「ジェラール…これが皇帝としての覚悟だ。」
彼の覚悟は、次世代の皇帝、そしてアバロン帝国の未来に新たな希望の火を灯すことになる。しかし、クジンシーとの戦いの結末は、この先の物語を大きく揺るがすものとなる。
(次章に続く)
「七英雄の影」