せんとくん vs ひこにゃん 第1章：始まりの鐘

奈良の大仏殿に近い春日大社の森。その静寂を破るかのように、木漏れ日の中に一つの影が動いた。その影は二本の長い角とどっしりとした体躯を持つ、奈良のシンボル、せんとくんだった。

せんとくんの思索

「これでいいのだろうか……」

せんとくんは深い溜息をつきながら、苔むした石段に座り込んでいた。最近の奈良の観光状況に思いを巡らせているのだ。かつて修学旅行生や海外観光客で賑わった奈良も、最近ではその注目度がやや薄れているように感じる。京都や大阪に旅行者が流れ、奈良の地が少しずつ忘れられているような気がしてならなかった。

「このままでは、奈良の誇りが……」

そんな思いを抱えていたせんとくんに、一通の手紙が届いた。それは、近江の地、滋賀県から送られてきたものだった。送り主は、彦根城の愛されるキャラクター、ひこにゃん。内容はこうだ。

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親愛なるせんとくんへ

最近、我が滋賀県では観光客が増え、彦根城も賑わいを見せています。しかし、どうやら奈良が以前ほどの輝きを失っているという噂を耳にしました。
これは関西地方全体の問題にも繋がります。観光の中心を取り戻すため、あなたと直接話し合いをしたいと思っています。

場所は琵琶湖湖畔、次の満月の夜。
良き結果を期待しています。

敬具
ひこにゃん

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せんとくんは手紙を読んで、眉をひそめた。

「ひこにゃん……お前までそのようなことを気にしているのか。だが話し合いだと？」

彼の心には少し疑念が生まれていた。ひこにゃんは友好的なキャラクターとして知られるが、彼の裏に何か意図があるのではないかと感じたのだ。

「行ってみるしかないな。奈良の名誉のためにも。」

せんとくんは立ち上がり、春日の森を出た。その背中には奈良の未来への決意が宿っていた。

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ひこにゃんの計画

一方、彦根城の天守閣では、ひこにゃんが琵琶湖を見下ろしながら何かを企んでいた。純白の体毛が月明かりに輝き、その可愛らしい姿からは想像もつかない鋭い目つきをしている。

「奈良が衰えている今こそ、滋賀が関西の観光地の中心に立つ時だにゃ。」

ひこにゃんの周りには、多くの彦根城のスタッフが集まっていた。その中の一人が尋ねる。

「ひこにゃん様、本当にせんとくんを呼び出しても大丈夫なのでしょうか？」

ひこにゃんはふふっと笑い、爪を磨きながら答えた。

「大丈夫だにゃ。あの角の大男には、彦根の力を見せつける必要がある。観光地としての奈良が再び浮上しようとするなら、先手を打っておくにゃ。」

どうやら、ひこにゃんには別の目的があるようだ。彼の計画は、奈良を関西の観光地争いから完全に退け、滋賀がその地位を独占することだった。

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琵琶湖の夜

次の満月の夜、せんとくんは琵琶湖の湖畔に立っていた。湖面は月光に照らされ、幻想的な光景が広がっている。しかし、その美しさの中にも一抹の緊張感が漂っていた。

「来たか、せんとくん。」

琵琶湖の向こうから現れたのは、甲冑をまとった白猫――ひこにゃんだった。そのかわいらしい姿に似合わない、堂々たる態度でせんとくんの前に立ちはだかる。

「ひこにゃん、話し合いと聞いていたが、どうやら様子が違うようだな。」

せんとくんが冷静に問いかけると、ひこにゃんはニヤリと笑みを浮かべた。

「話し合いはするにゃ。ただし、それは力と力の対話だにゃ。この地で観光地の頂点を決めるため、勝負をしようじゃないか。」

「勝負だと……？」

せんとくんは驚いたが、彼の中で燃える奈良の誇りがすぐにその驚きを打ち消した。

「いいだろう。奈良の名誉を懸けて、お前の挑戦を受けて立つ！」

こうして、琵琶湖を舞台にせんとくんとひこにゃんの戦いが幕を開けた。関西観光地の未来を懸けた、かつてない熱き戦いが始まる――。

第1章　終